コラム|食べることを考える

ALSと食事の工夫

ALSと食事の工夫 - ショコラ・ダ・ファミリア - Chocolate de Familia

ALS(筋萎縮性側索硬化症)では、のどや舌の筋肉も弱くなっていきます。食べることが難しくなる場面は人によって違い、合う工夫も違います。ここでは、公的機関と専門医の報告をもとに、どこでつまずくと何が起こるのか、どんな工夫が挙げられているのかを整理します。

この記事のポイント

ALSでは、のどや舌の筋肉が弱くなることで、話しにくさ(構音障害)と飲み込みにくさ(嚥下障害)が起こります。

  • 飲み込みにくさは本人に自覚されることが多く、現れてからは比較的急速に進むとされます
  • 口でまとめにくいときと、のどに残るときでは、合う工夫が違います
  • とろみは助けになることも、かえって食べにくくなることもあります
  • 体重を減らさないことが大切で、胃ろうは呼吸機能が保たれているうちに相談する選択肢として挙げられています

のどや舌の筋肉も弱くなります

難病情報センターは、ALSを「手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気」と説明しています1。筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かす運動ニューロンが障害を受けることで起こります1。

のどの筋肉に力が入らなくなると「発音しにくくなり(構音障害)、水や食べ物の飲み込みも難しくなります(嚥下障害)」1。

いっぽうで、「体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通」とされています1。味は分かる。おいしさも分かる。そのことは、食事を考えるうえで前提になります。

自覚されることが多く進み方が速い

専門医の報告では、「ALSではすべての患者が経過中に嚥下障害を合併する可能性を持ち、嚥下障害が現れてからは比較的急速に症状が進行する」とされています2。また「ALS患者は嚥下障害を自覚していることが多く」、問診で疑われれば嚥下造影検査などで障害の部位を確かめ、代償となる飲み込み方を始める、という流れが示されています2。

その後も定期的に、嚥下機能・栄養状態・呼吸機能を評価することが必要とされています2。一度決めた食べ方が、ずっと合い続けるとは限らないためです。

口でまとめにくいとき

障害が口の中(口腔期)から始まった場合、舌の動きの障害や舌のやせのため、食べ物をのどへ送り込みにくくなります2。噛んでいる途中で食べ物を口の中でまとめることが難しくなり、噛む力そのものが保たれていても、食べ物を砕く働きが損なわれます2。

ここで大切な指摘があります。報告では、「舌運動障害による咀嚼機能の低下は、食物を刻むだけでは代償できないことが多く、とろみをつけ、食物に凝集性(まとまり)を持たせる必要がある」とされています2。

刻めば食べやすくなる、とは限りません。刻んだだけの食べ物は口の中でばらけ、かえってまとめにくくなることがあります。

さらに進んだ場合には、口の中に貼りつきにくい(付着性の低い)もの、噛む必要のないものを選ぶという考え方が示されています2。食べる量が落ちやすい時期でもあるため、栄養状態に注意が必要とされています2。

のどに残るとき

のど(咽頭期)が障害され、のどを締める力が落ちると、食べ物がのどに残ります2。

のどに残る患者さんは「つまり感や飲み込みづらさを自覚することが多く、このような患者の食物にとろみをつけると、食物の付着性が増し、嚥下困難感が強くなる」と報告されています2。

とろみは万能ではありません。口でまとめにくい人には助けになり、のどに残る人にはかえって負担になることがあります。同じ病気でも、つまずいている場所が違えば、合う工夫は逆になります。

むせるとき声が湿るとき

食事や飲水でむせ込む、食べたあとに声が湿ったような響きになる(湿性嗄声)。こうした変化が出た場合は、のどを持ち上げる動きや前へ送る動きの障害によって、のどを閉じる動きが不十分になり、誤嚥することがあるとされています2。

ただし、そこで食べることが終わるわけではありません。報告では次のように示されています。

  • 少量ずつ飲み込む飲み込める量を少量ずつにすることで、のどの機能を補えることがあります2。
  • 咳の力が保たれているか誤嚥している場合でも、咳の反射があり、入ったものを出すのに十分な咳の力があれば、口から食べることを続けられるとされています2。
  • 反射が遅いときの水分飲み込みの反射が始まるのが遅れている場合、水分にとろみをつけてのどを通る速さを遅くすることは、誤嚥の予防に有効とされています2。

呼吸と食事はつながっています

ALSでは呼吸の状態が食事に影響します。呼吸の働きが落ちている場合、食事中の続けざまの飲み込みによって息苦しさを感じたり、疲れたりすることがあるとされ、食事中の酸素飽和度を評価することが挙げられています2。

食事の途中で疲れてしまう、食べ終わらないうちに手が止まる。それは食欲の問題ではなく、呼吸の問題であることがあります。

体重を減らさないこと

難病情報センターは、ALSについて「体重が減ると病状が悪化することが知られており」、「高カロリー栄養療法が大切」としています1。進行が速い要因のひとつとしても、体重減少が大きいことが挙げられています1。

食べる量が減っていないか。体重が落ちていないか。数字で見ておくと、変化が早く分かります。

胃ろうは早めに相談する選択肢です

口からの食事で栄養が十分にとれない場合、鼻からの管や、おなかから胃に通した管(胃ろう)による栄養補給が行われます1。

ここで時期が重要になります。難病情報センターは「呼吸機能が悪くなってからの胃ろうの造設はより危険が伴いますので、早めに主治医と相談することをお勧めします」としています1。専門医の報告でも、努力性肺活量が50%以下では胃ろう造設の合併症のリスクが上がるため、嚥下障害が現れる前に待機的に造設することを考慮する、とされています2。

つまり胃ろうは、「口から食べられなくなってから考えるもの」としてではなく、その前に話し合っておく選択肢として挙げられています。造設の時期も、その後どのように食べるかも、主治医とよく相談してください。

相談できるところ

まずは主治医です。そのうえで、療養生活全体の相談先として、都道府県および指定都市に設置されている難病相談支援センターがあります。難病情報センターのサイトに全国の一覧が掲載されています3。

飲み込みの評価や訓練に関わる専門職と、その探し方は「飲み込みにくさの相談先」にまとめています。食事の形の段階については「学会分類2021とは」を、飲み込む仕組みそのものについては「嚥下障害とは」をご覧ください。

よくある質問

ALSでは、必ず飲み込みにくくなりますか?

専門医の報告では「すべての患者が経過中に嚥下障害を合併する可能性を持ち、嚥下障害が現れてからは比較的急速に症状が進行する」とされています。ただし現れる時期や程度は人によって違います。だからこそ、嚥下機能・栄養状態・呼吸機能を定期的に評価することが必要とされています。

刻み食にすれば食べやすくなりますか?

舌の動きが落ちている場合、刻むだけでは補えないことが多いと報告されています。刻んだ食べ物は口の中でばらけ、まとめにくくなることがあるためです。とろみをつけて、食べ物にまとまり(凝集性)を持たせる必要があるとされています。

とろみをつければ安全ですか?

つまずいている場所によります。口の中でまとめにくい場合には助けになりますが、のどに食べ物が残るタイプでは、とろみによって貼りつきが強まり、飲み込みにくさが強くなると報告されています。飲み込みの反射が遅れている場合の水分にはとろみが有効とされます。評価にもとづいて、専門職と相談しながら選んでください。

胃ろうは、いつ考えればいいですか?

難病情報センターは「呼吸機能が悪くなってからの胃ろうの造設はより危険が伴いますので、早めに主治医と相談することをお勧めします」としています。専門医の報告でも、努力性肺活量が50%以下では合併症のリスクが上がるため、嚥下障害が現れる前に待機的に造設することを考慮するとされています。口から食べられなくなってから考えるものではなく、その前に話し合っておく選択肢として挙げられています。

食事の途中で疲れてしまうのはなぜですか?

呼吸の働きが落ちている場合、食事中の続けざまの飲み込みによって息苦しさを感じたり、疲れたりすることがあるとされています。食事中の酸素飽和度を評価することが挙げられています。食欲の問題と決めつけず、主治医にご相談ください。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に関する助言ではありません。症状の現れ方や適切な対応は個々の状態によって異なります。判断は必ず主治医をはじめとする専門職にご相談ください。

出典

  1. 難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/52
  2. 山本敏之「筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病に対する嚥下障害の評価と対策」臨床神経学 51巻11号(2011)1072-1074
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/51/11/51_11_1072/_article/-char/ja/
  3. 難病情報センター「難病相談支援センター一覧」
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/1361

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